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民法改正~消滅時効~

岩下 芳乃| 2017年 11月号掲載

 平成29年5月に「民法の一部を改正する法律」が参議院で可決され、平成29年6月2日の公布日から3年以内に施行されることとなりました。この改正民法では、消滅時効に関する規定が大きく変更されるとのことですが、どのように変わるのでしょうか。

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 債権の消滅時効についての原則的な時効期間と起算点の変更と統一化が図られます。
 現行法において、一般的な債権については権利を行使することができる時から10年で時効によって消滅するとされ、例外的に、職業別の短期消滅時効と呼ばれる、10年よりも時効期間が短い債権(例えば、飲み屋のツケやDVDのレンタル料は1年、工事の請負代金は3年)も規定されています。また、民法以外の法律で10年よりも短い時効期間が規定されていることもあり、例えば商法では、商行為によって生じた債権は5年で時効により消滅することになっています。
  これについて、改正民法では、消滅時効に関する原則的な時効期間について、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」(債権者の主観によって決まります。)または「権利を行使することができる時から10年」(客観的な時間の経過で決まります。)と変更されることとなります。そして、職業別の短期消滅時効が廃止されるとともに、商法の消滅時効に関する規定も削除されるため、多くの債権の消滅時効について時効期間や起算点が統一化されることとなります。

 この点、注意が必要なのは、未払残業代などの賃料債権についてです。賃料債権については、現行法上1年の短期消滅時効の対象となりますが、労働者保護の観点から労働基準法によって2年に延長されています。それが改正民法では、1年の短期消滅時効がなくなり、労働基準法を上回る5年の消滅時効期間が規定されることになった結果、労働者保護のために消滅時効期間を延長したはずの労働基準法で規定されている時効期間が改正民法の規定によるものよりも下回ることとなります。この労働基準法上の規定については、今のところ改正民法施行後も維持される予定です。現在、この労働基準法上の規定の見直しが進められているところですが、どのような結果になったとしても、企業側、労働者側それぞれに大きな影響を生じさせることが予想されますので、今後の動向に注意が必要です。

 この他にも、時効の「中断」と「停止」について、時効の「更新」と「完成猶予」として再構成されることになります。
 特に注目すべきなのは、「協議による時効の完成猶予」の規定が新設されることです。これまでは、当事者間で協議を行っている最中であっても、時効完成を阻止するために裁判を提起するなど何かしらの手段を講じなければならない場合がありました。しかし、この規定では、当事者間で協議を行う旨の合意が書面でなされた場合に限ってですが、1年間(再度の合意が可能で、最大で5年間)時効の完成を回避することができるようになります。できるだけ話し合いで紛争を解決したいという当事者の希望に添う制度といえます。

債権の消滅時効についての大幅な改正がなされるので、注意が必要です。

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桜樹法律事務所の企業法務

福岡県糸島市出身、昭和59年生まれ。
福岡県立修猷館高校-同志社大学法学部-神戸大学法科大学院卒。
2012年弁護士登録。

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