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不用意な同情は無用

塚本 侃| 2006年 2月号掲載

 3カ月の試用期間中にミスを多発したため、試用期間を延長したのですが、結局本人の勤務態度が改まらなかったので解雇したいと思います。問題はありませんか。

 最初の試用期間中に本人の不適格性が明らとなれば、試用期間を延長することなく本採用を拒否すべきです。そして試用期間の延長は、本人の許諾がある場合を除いて使用者が一方的にできるものではなく、
①試用期間の延長について明文の就業規則等がある場合
②長年にわたって会社の慣行として試用用期間の延長の制度がある場合
③本人の適格性に疑問があり、その採否に関してしばらく本人の勤務態度を観察する期間の必要性につき合理的理由のある場合に限り許されるとされています。

 さらに試用期間を延長するにしても必ず期間を限ることが必要です。期間を定めずに試用期間の延長を認めるということは、何回も延長を認めることになり、解雇保護規定の趣旨から許されません。以上の条件に照らし、試用期間の延長が認められない場合には、既に試用期間は経過しているので、通常の雇用関係が成立し、通常の解雇と同一に論じられ、正当な理由が認められない限り解雇は認められないことになります。

 それに対して、試用期間の延長が認められる場合は、通常の解雇より広い範囲の解雇の自由が認められます。しかし、その場合でも試用期間の制度(解雇権の留保)趣旨に照らせば、使用者が採用決定後の調査により、または試用期間中の勤務状態等により、当初は知ることができず、または知ることが期待できないような事実を知るに至った場合にその者を会社に雇用するのは適当でないと判断するのが、試用期間(解雇権の留保)の趣旨・目的に照らして客観的に相当と認められることが必要です。

 その程度に至らない場合には、解雇権を行使することは出来ないと考えられています。なお、試用期間(解雇権の留保)の趣旨・目的は、従業員の適格性判定期間であるとともに、教育期間でもあると言われています。従って、不適格を理由に解雇する場合にも、「よく教えたが駄目でした」 という場合でなければ、本採用拒否の正当性は認められませんので注意が必要です。

「試用期間と本採用の拒否」

試用期間に不適格を理由に解雇する場合にも、「よく教えたが駄目でした」という場合でなければ、本採用拒否の正当性は認められないことも注意してください。

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桜樹法律事務所の企業法務

昭和22年生まれ。
熊本高校-中央大学法学部卒。昭和56年弁護士登録。平成15年熊本県弁護士会会長を務めたほか、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会で要職を歴任。熊本県収用委員会会長。

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