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必ず労働条件の明示を

塚本 侃| 2006年 5月号掲載

 職安に求人票を出し採用した所、労働条件について会社と本人との認識が違っていた場合、求人票の記載に会社は拘束されますか?

 募集条件の内容と応募者との間で取り決めた労働条件の内容が異なった場合に改めて文書を交付したり、労働契約書を作成することが少ないため、後日問題になることがあります。

 本来ありもしない好条件をちらつかせて労働者を勧誘し、実際にはひどい労働条件を労働者に強いるという弊害を除くために労働条件明示義務が公法上の義務として定められていることや、また、求人者が求人票に労働条件を明示する際それが契約内容となることを前提としており、求職者も求人者と同様の期待を有しているので、公共職業安定所の紹介で成立した労働条件の場合、当事者間でその条件を明確に変更し、これと異なる合意をするなどの特段の事情がない限り労働契約の内容になると考えられます。

 実際の裁判でも、給料の額について求人票記載の額と異なる額の合意がなされたか否かが争われたケースでは、「求人票に記載された基本給額は見込額であり、文章上でも、最低額の支給を保証したわけでもなく、将来入社時までに確保されることが予定された目標としての額と解すべきであり、」 として、法的拘束力を否定しています。

 しかし、求職者は求人票の記載を信用して、労働契約の申し込みを行うものですから、その記載内容を変更するということは、他により良い条件で就職することが出来たかもしれない求職者の権利を奪うことにもなりかねません。
 
 この様な求職者の権利を侵害すると判断される場合には信義則に違反し損害賠償が生じる場合があるとされています。また、求人票に退職金ありとか退職金共済に加入と記載し、2年務めたら3年目から退職金が出ると述べて採用した事案では、中退金制度に加入すれば支給されたであろう最下限の金額の支払いが裁判例でも認められています。

 使用者には、雇用契約締結時の労働条件の明示義務がありますので、求人票と異なった労働条件を合意した上きには書面交付による条件明示や雇用契約書の作成が後のトラブルを避けるために必要です。

「求人票の記載と採用時の労働条件」

求人票と労働条件が異なるときは、すべて書面交付による条件明示や雇用契約書を作成して、後のトラブルを避けましょう。

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桜樹法律事務所の企業法務

昭和22年生まれ。
熊本高校-中央大学法学部卒。昭和56年弁護士登録。平成15年熊本県弁護士会会長を務めたほか、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会で要職を歴任。熊本県収用委員会会長。

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