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安易な就業規則の不利益変更は危険

塚本 侃| 2007年 5月号掲載

 当社では、定年延長に伴い給与に問する就業規則の見直しをしたいのですが、どの様な手続で行えばいいのでしょうか。

 就業規則を従業員にとって不利益に変更する場合でも

  • ① 変更理由の合理性
  • ② 変更手続の合理性
  • ③ 不利益の内容・程度の合理性
  • ④ 適用上の合理性
  • ⑤ 不利益の緩和・代替措置の状況
  • ⑥ 社会的相当性等

について総合的に判断し、それが合理的であれば従業員の同意が得られなくても就業規則の見直しも可能です。

 このことを定年延長に基づく賃金の切り下げを例にとって説明しますと、①の「変更理由の合理性」というのは、定年延長になれば人件費が増大し、人事の停滞等も生じますので、これらの事態に対応する必要性が生じてきます。そして、経営効率や収益力の改善も余り期待できない状況下では、賃金を切り下げることについて合理性が認められるということです。次に、②の「変更手続の合理性」というのは、少なくとも半年ぐらいの期間をかけて労働組合との団体交渉や、従業員全員を相手に説明、意見交換、討論を行うことが必要ということです。この場合、従業員の意見が合理的であればその意見を聞き入れる度量も求められます。また、③の「不利益の内容・程度の合理性」というのは、不利益変更はやむを得ないとしても、出来るだけその不利益の程度を必要最小限にしなければなりません。全従業員の賃金体系を抜本的に改めるのではなく、従前の定年以降の分について、賞与や種々の手当をカットあるいは減額するなどの方法で対応できるのであればその限度に止めるべきです。さらに、④の「適用上の合理性」とは、現実には組合役員や組合活動に熱心な従業員の賃金のみが切り下げられるということは認められないということです。そして、⑤の「不利益の綬和・代替措置の状況」というのは、従業員の賃金が一律に切り下げられるのではなく、特定の層の従業員の賃金が切り下げられる場合には、一部の人のみが不利益を被るのでその不利益を補う措置が必要であるということです。例えば、従前の支給額との差額を調整手当として一定期間支給するとか、新たな職能あるいは職責制度を導入し従前の支給額との差額を埋める機会を与えることが求められます。最後に、⑥の「社会的相当性」ですが、賃金の減額に見合う労働の減少が生じる場合や、減額後の賃金が他の同業他社や社会一般の賃金と比較してなお高い場合には社会的相当性が認められることになります。

「就業規則の不利益変更」

不利益に変更する場合には、その不利益を従業員に強いることが認められるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に限り可能です。

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桜樹法律事務所の企業法務

昭和22年生まれ。
熊本高校-中央大学法学部卒。昭和56年弁護士登録。平成15年熊本県弁護士会会長を務めたほか、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会で要職を歴任。熊本県収用委員会会長。

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