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乗車時間は労働ではありません。

塚本 侃| 2008年 8月号掲載

 社員が出張先まで列車、バス、船舶、航空機などの乗り物に乗って行く場合に、その乗車時間も労働時間になるのでしょうか。

 通勤時間と同視したり(無条件に労働時間になる)、時刻指定の場合に限り労働時間になるという考え方もあるようですが、物品の監視などの別段の指示がある場合の外は、一般的には拘束されている時間ではあっても、労務に従事しているわけではありませんので、休憩時間に類似した時間であると考えられています。

 交通機関に乗客として乗っている時間は乗り物から降りて自由に行動することができない、その意味では交通機関という場所に目的地まで拘束されていると言えます。しかし、社員は到着するまでの間は、眠っていようが、飲食をしようが、読書をしようが全く自由で、その移動時間中に何かをするようにとの指示を受けているわけではありませんから、ちょうど外出が制限された事業場内の休憩時間と同じと考えることができるので、労働時間ではなく、休憩時間に類似した時間と考えられています。

 具体的な例としては、一昼夜交代勤務者の夜間の睡眠時間や、自動車運転者のフェリーの乗船時間や、長距離トラック運転手のフェリー乗船中の時間が考えられますが、これらの時間は労働時間ではなく、休憩時間に類似した時間であるとされています。

 このように、乗車時間そのものは労働時間とみられる「労働」にはあたりませんので、まず、事業場外労働に関するみなし規定の適用が問題とされる「労働時間」にもあたらないことになります。従いまして、乗車時間を除いた労働時間について事業場外労働に関するみなし規定が適用されることになります。また、満18才未満の年少者に対し深夜に出発する列車等を指示して出張を命じても、労働基準法第61条1項の深夜労働違反になりませんし、時間外に出発する列車等を指定して出張を命じても労働基準法第60条の時間外労働違反にもなりません。さらに、時間外手当の支給対象となる実勤務時間に乗車時間を算入することもできませんし、乗車時間が休日や深夜に掛かっても休日労働や深夜労働として割増賃金を支払う必要はありません。

「出張の時の移動時間」

出張命令は、乗車中の用務を指示したものではなく、目的地に着くことが指示内容ですから、拘束を受けているとしても労働基準法上の「労働時間」ではありません。

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桜樹法律事務所の企業法務

昭和22年生まれ。
熊本高校-中央大学法学部卒。昭和56年弁護士登録。平成15年熊本県弁護士会会長を務めたほか、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会で要職を歴任。熊本県収用委員会会長。

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