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労働時間の繰上げと繰下げ

塚本 侃| 2010年 7月号掲載

 労働時間の繰上げや繰下げは会社の都合で自由に出来ますか。

 労働時間には労働基準法(以下「労基法」といいます)に定められている1週40時間、1日8時間という法定労働時間があります。その他に、各会社が就業規則等で定めている、始業時刻から終業時刻までの労働契約上の労働時間があり、所定労働時間といわれています。そして、所定労働時間を1日7時間と定めている場合でも8時間以内であれば、法定労働時間を超えていないので割増賃金を支払う必要はありません。しかし、本来の賃金が7時間で決められていれば、1時間分は「ただ働き」になりますので割増賃金の支払いは不要ですが、1時間分の相当額あるいは時間に対応させない定額の支払いは必要です。次に労基法上の労働時間の規制は、実労働時間を対象としており、労働者の遅刻、早退、職場離脱、私用外出、組合活動の時間などの就労していない時間は除外されます。これに対して、会社次第では、時間外労働を始業・終業時刻を基準として算定しているところもあります。例えば、始業時刻以前に働いて午後から早退した場合に「早出残業」としたり、午後から出社して終業時刻以後も働いた場合に「残業」とするなどして残業手当を支給するところもありますが、これは法律上の要求ではなく、法律を上回るその会社独自の定めということになります。

 このように労基法は実労働時間主義を取っているので、始業・終業時刻の繰上げ、繰下げは自由ということになり、結果として1日8時間あるいは1週間40時間を超えなければ労基法上の時間外労働とはなりません。しかし、始業・終業時刻の変更が使用者にとって自由であるからといって、労働者が当然応じる義務があるとはいえません。労働者を拘束するためには、就業規則中に「使用者は始業・終業時刻を業務の都合で変更することが出来る」という定めを入れることが必要となります。また、始業・終業時刻の変更は事業場全体で行うほか労働者毎に行うことも出来ますし、遅刻、私用外出、組合活動等があった場合にはそれに相当する時間、自動的に当日の終業時刻を繰下げるという自動的な繰下げ制度を設けることも可能です。

「労働時間の変更には就業規則に明示を」

労働時間の繰上げや繰下げは会社で自由に行うことが出来ますが、労働者を拘束するためには就業規則中にそれが出来ることを明示することが必要です。

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桜樹法律事務所の企業法務

昭和22年生まれ。
熊本高校-中央大学法学部卒。昭和56年弁護士登録。平成15年熊本県弁護士会会長を務めたほか、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会で要職を歴任。熊本県収用委員会会長。

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