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自宅待機命令と平均賃金

塚本 侃| 2011年 2月号掲載

 社員に自宅待機を命じたときは、平均賃金の6割を支払えばいいのでしょうか、それとも賃金の全額を支払う必要がありますか

 労働基準法26条は、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者(社員)に、その平均賃金の百分の六〇以上の手当を支払わなければならない。」と定めています。そこで、自宅待機を命じる場合にも、使用者の責めに帰すべき理由によるか、或いは社員の責めに帰すべき理由によるかが判断の分かれ目となります。この判断は、実際には難しいものですが、分けて考えてみましょう。

 まず、事故発生や不正行為再発のおそれなど実質的な理由がある場合には、職場で仕事に従事させれば事故や不正行為が発生或いは繰り返される可能性が高いので、就業規則に基づき休職を命じることには相当性が認められます。従いまして、休職は専ら社員の責めに帰すべき理由によるものであって、使用者の責めに帰すべき理由によるものとは考えられません。

 しかし、他方で注意しなければならないのは、休職にさせるかどうか決めるために自宅待機を命じた場合で、しかも自宅待機中の賃金控除を正当化することを定めた就業規則、労働協約その他の規定がない場合です。この場合には、自宅待機は会社の都合に基づき発せられたものであり、その趣旨は単に社員が自宅に待機することで社員の提供すべき労務とする職務命令と解されるということです。

 自宅謹慎(待機)については、日通名古屋製鉄所事件(名古屋地裁判決平成3・7・22)も、懲戒問題が発生して自宅謹慎を命じられ、後に懲戒処分が決定した場合の自宅謹慎について、それ自体は懲戒的性質を有するものではなく、当面の職場秩序維持の観点から取られる一種の職務命令と見るべきであるとして、使用者は当然にその間の賃金支払い義務を免れないという判断を示しています。

「自宅待機命令で賃金支払い義務を免れるためには」

就業規則中で、自宅待機であれば懲戒処分までの暫定措置であることを、自宅謹慎であれば実質的な出勤禁止に転化させる根拠を、明確に定めて、社員の責めに帰すべき理由によるものであることを明記すべきです。

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桜樹法律事務所の企業法務

昭和22年2月17日生まれ。熊本高校-中央大学法学部卒。昭和56年弁護士登録。平成15年熊本県弁護士会会長を務めたほか、日本弁護士連合会、九州弁護士会連合会で要職を歴任。熊本県収用委員会会長。

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