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「被災借地借家法」とは

馬場 啓| 2016年 8月号掲載

 当社は、20年前に、期間30年の約束で土地を賃借し、この借地上に工場を建築していたのですが、このたびの熊本地震で工場建物が全壊してしまいました。そこで、地主に対して借地契約の解約を申し入れたところ、地主は、契約期間はまだ10年間残っているのだからといって解約に応じてくれません。当社としては、この借地上に工場を再建するつもりはありません。この場合、残りの契約期間中、地代を支払い続けなければならないのでしょうか。もし解約ができないのであれば、借地権を他に譲渡したいと思うのですが、地主が承諾しない場合、それもできないのでしょうか。

 結論から言うと、現在の法律の下では、地主の承諾がなければ、借地契約の解約も借地権の譲渡もできません。
 借地契約は、借地人のためだけでなく、契約期間中は地代が得られるという意味で地主のためのものでもあります。そこで、契約上、借地人からの中途解約を認める規定がない限り、契約期間中の解約はできません。また、借地権の譲渡には、法律上、地主の承諾が必要ですから、地主が承諾しない限りは譲渡もできません。

 通常の場合はそれでもいいかもしれませんが、今回のような大規模な災害によって建物が滅失した場合にまで、借地人は契約期間中、地代を払い続けなければならないというのでは災害復興の妨げになります。そこで、平成25年、「大規模な災害の被災地における借地借家に関する特別措置法(被災借地借家法)」ができました。この法律が適用になれば、借地人は、地主に対して借地契約の解約の申入れをすることができ、申入日から3か月を経過すると借地権は消滅することになります。つまりこれ以降は地代を支払う必要がないということです。また、地主が借地権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、借地人の申立により、借地権の譲渡について地主の承諾に代わる許可を与えることができますので、この手続によって、地主の承諾がなくても借地権を譲渡することができる場合があります。

 このほか、被災借地借家法は、大規模な災害によって借家が滅失した場合に従前の家主が建物を再築して賃借しようとするときは、従前の借家人に通知をしなければならないこととして借家人の保護を図るなど、復興のためのいくつかの制度を創設しています。

 ただ、注意しなければならないのは、この法律は、大規模な災害であって、その被災地において借地人の保護その他の借地借家に関する配慮をすることが特に必要と認められるものが発生した場合に、政令で指定されてはじめて適用になるということです。

 この原稿執筆の7月20日現在では、熊本地震について、この政令の指定はなされていません。そこで、現時点においては、最初にお答えした結論のようにならざるを得ないのですが、今後、政令の指定がなされれば、被災借地借家法による契約の解約や借地権の譲渡が可能となります。

 なお、やはり災害復興を目的として、マンションを所有している人たち等の多数決でマンションの取壊し、再建、敷地売却等の決議ができるようにする特別な制度を設けた「(改正)被災マンション法」についても、現時点では熊本地震に適用することが政令で定められていません。

 熊本地震からの復興のためには、今後、政令による指定がなされ、これらの法律が適用されるようになることが期待されるところです。

「被災借地借家法」

熊本地震からの復興のため、「被災借地借家法」「被災マンション法」の適用を。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、1960(昭和35)年6月21日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本大学法科大学院教授、熊本市情報公開・個人情報保護審議会委員。

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