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事業再編計画としての子会社株式買取と取締役の善管注意義務

馬場 啓| 2010年 4月号掲載

 当社は傘下の子会社をグループ企業として不動産賃貸斡旋のフランチャイズ事業を展開する株式会社です。今回、事業再編計画の一環として、子会社の一つであるA社を完全子会社にすることにしました。A社の発行済み株式(非上場)のうち、65%は当社が保有しており、残りの35%はフランチャイズ事業の加盟店数社が保有しています。A社株式の評価額は1株1万円~2万円程度ですが、当社の円滑な事業遂行のためにはフランチャイズ加盟店との友好関係を維持する必要があることから、A社設立時の払込金額である1株5万円を買取価格にできないかと考えています。このような株式買取が可能でしょうか。

 取締役は会社に損害を与えないようにすべき善管注意義務を負っており、一般的には、会社が評価額1万円~2万円にすぎない物を5万円で買い取ることは善管注意義務違反の問題を生じます。

 しかしながら、今回のA社株式の買い取りは、御社の事業再編計画の一環としてなされるということであり、このような事業再編計画の策定は、本来、A社を完全子会社とするメリットの評価も含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断に委ねられるべき問題です。したがって、お考えのような株式の買い取りが取締役の善管注意義務違反となるかどうかについては、株式の評価額と買取価格を比較して単純に考えるべきではなく(A社株式の評価額に幅があるとすればなおさらです。)、さらにA社株式取得の必要性、御社の財務上の負担、A社株式の取得を円滑に進める必要性の程度及び買取価格決定の過程等を総合して考える必要があります。

 平成22年7月15日の最高裁判所の判決は、本件と同様のケースで上記のように判断して取締役の善管注意義務を否定しました。

 したがって、本件の場合、御社がA社を完全子会社とするメリット(A社株式取得の必要性)の程度、1株5万円という買取価格が御社に与える財務上の負担の程度、買取価格をより低額(1万円ないし2万円)にすることがフランチャイズ加盟店との友好関係に及ぼす影響の有無及びフランチャイズ加盟店との友好関係を維持する必要性の程度等を十分に検討することが必要といえます。その結果、費用対効果の観点からA社株式を1株5万円で買い取ることに合理性が認められ、かつ、買取価格の決定が経営会議によって検討され、弁護士の意見が聴取されるなどの手続がきちんと履践されれば、取締役の善管注意義務違反にはならないと考えられますので、お考えのような株式買取も十分可能です。

「買取価格の合理性」

株式評価額を上回る価格での買い取りも許される場合がある。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、1960(昭和35)年6月21日生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本大学法科大学院教授、熊本市情報公開・個人情報保護審議会委員。

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