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買収監査で顧客情報を提供することが個人情報の「第三者」提供にあたるか?

馬場 啓| 2013年 8月号掲載

 当社は、A社に対する事業承継の話を進めています。基本合意契約を締結し、現在、最終的な事業承継契約締結に向けて買収監査(デュー・ディリジェンス)を受けているところです。今般、この監査において、A社から、当社が保有している顧客情報を提供するように求められました。
 個人情報保護法では本人の同意なく個人情報を第三者に提供することは禁止されていると聞いています。A社の求めに応じて顧客情報を提供することに問題はないでしょうか。

 ご指摘のとおり、個人情報保護法は、個人情報取扱事業者があらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供することを原則として禁止しています。しかしながら、この法律は、次の場合には「第三者」への提供にはあたらないと規定しています。

  • ① 個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データを委託する場合
  • ② 個人データを特定の者との間で共同して利用する場合
  • ③ 事業の承継に伴って個人データが提供される場合

 ①は、例えばデータの打ち込み等、情報処理を委託するために個人データを渡す場合であり、②は、個人データの共同利用の場合です。③は、合併、分社化、営業譲渡等により事業が承継され個人データが移転される場合であり、お尋ねのケースについては、これにあたらないかがポイントになります。

 貴社とA社との間で事業承継契約が締結された後であれば、③によりA社は「第三者」ではないことになりますから、問題なく個人データを提供できます。それでは、基本合意はできているけれども事業承継契約は未だ締結されていない本ケースではどうでしょうか。

 この点、従来は、事業承継契約を締結する前の交渉段階で個人データを提供する場合は「第三者」への提供となり得るとされていました。しかしながら、事業承継を前提とした交渉過程での情報提供が「第三者」への提供になるというのでは、本件のような買収監査に支障をきたし、スムースな事業承継ができなくなります。そこで、経済産業省の個人情報保護ガイドラインは、平成21年の改正から、事業の承継のための契約を締結するより前の交渉段階で、相手会社から自社の調査を受け、自社の個人データを相手会社へ提供する場合は、「第三者」への提供にはあたらないこととし、この場合、当該データの利用目的及び取扱方法、漏えい等が発生した場合の措置、事業承継の交渉が不調となった場合の措置等、相手会社に安全管理措置を遵守させるため必要な契約を締結しなければならないとするにとどめました。

 したがって、お尋ねのケースは、個人情報保護法で禁止される「第三者」への提供にはあたりません。ただし、A社との間で前記ガイドラインのような情報保護のための契約を締結する必要があります。

「買収監査と個人情報保護法」

買収監査で顧客データを相手会社に提供することは「第三者」提供にはあたらない。ただし、相手方会社との間で情報保護のための契約を締結する必要がある。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和35年生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本県情報公開・個人情報保護審議会会長、熊本市入札等監視委員会委員長。

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