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取引先の会社分割と債権回収

馬場 啓| 2014年 5月号掲載

 当社は、A社に対して3000万円の債権を有していますが、A社は数年前から経営難に陥り、当社に対する債務の弁済も滞っています。
 そのようななか、A社は、本年3月、会社分割を行い、同社で唯一順調な業績を上げている飲食事業部門を独立させ、B社として新設しました。B社は飲食事業に関するA社の債務だけを承継し、当社の債権のような飲食事業以外の債務は承継しないということです。
 同社が債権回収する手段として、どのようなことが考えられるでしょうか。

 御社がA社に対して債権の支払を求めることができるのは当然ですが、A社が経営難ということであれば、簡単に支払に応じてもらうことはできないでしょう。

 そこで、業績が順調なB社に対して支払を求めたいところですが、A社とB社は法律上別個の会社ですから、B社が債務を承継していない限りは、A社に対する債権の支払をB社に対して求めることはできないのが原則です。

 しかしながら、新設会社(B社)が承継した債務だけが支払われるというのは不公平であり、他に資力のない会社(A社)が、会社分割により、会社財産を他の会社に移してしまうことは、債権者を害する行為と言えます。

 そこで、御社としては、A社の株式分割を詐害行為として取り消すことが考えられます(詐害行為取消権)。株式分割が取り消されれば、B社に移転した財産がA社に戻るので、この財産から債権を回収すること(強制執行)が可能になるわけです。会社分割を詐害行為として取り消すことができるかどうかについては争いがないわけではありませんが、多くの裁判例がこれを認めています。

 また、もしB社がA社の商号を引き続き使用しているという場合であれば、このような商号の続用に基づいて、B社に対して債務の支払を求めていくことも考えられます。会社法上、営業譲渡を受けた会社(譲受会社)が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には譲受会社も譲渡会社の債務を弁済する責任を負うことが規定されており、判例上、この場合と同様に考えて、会社分割の場合についても、新設会社が商号を続用した場合には、特段の事情がない限り、新設会社(B社)は分割会社(A社)の債務を弁済する責任を負うことが認められています。

 さらに、A社が倒産の危機にあるにもかかわらず、強制執行を受けることを免れるため、あるいは財産を隠匿するために新会社を設立して業務を継続しようとしているような場合は、A社とB社を同一の会社とみなして(法人格否認の法理)、B社に対して債務の支払を求めていくことも考えられます。これが認められるかどうかは、A社とB社との関係、A社と債権者との事前の協議の有無・内容、会社分割の目的等の個々の事情によって決まることになります。

 いずれにせよ、取引先の会社分割によって必ずしも債権が回収できなくなるわけではありません。決して泣き寝入りしないようにしてください。

「会社分割」

詐害行為取消権、商号続用による責任、法人格否認の法理などの方法によって債権回収ができる場合がある。泣き寝入りは禁物。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和35年生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本大学法科大学院教授、熊本市情報公開・個人情報保護審議会委員。

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