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企業の「営業秘密」を守るためには

北野 誠| 2007年 4月号掲載

 当社の元従業員が退職後、同業の会社を設立したうえ、顧客名簿や営 業ノウハウを利用して顧客に対し営業活動をし、顧客を奪っており、経 済的な損失が出ています。当社としては、経済的損害や信用を回復するために、どのような法的措置を講ずることができるのでしょうか。

 従業員は、会社との間で、労働契約を締結しているため、同業の仕事をすることはもちろん、他社に勤務したり、他の営業をすることも禁止されています。これを労働者の競業避止義務、誠実義務などと呼んでいます。

 しかし、会社を退職した後については、会社と従業員との間の労働契約はなくなりますので、原則として、その労働契約に基づく競業避止義務や誠実義務を負うことはありません。従って、従業員に対し、退職後においても、同業他社に就職することや同業の会社を設立することを禁止させたい場合には、その旨の誓約書などで合意をする必要があります。ただしその合意も職業選択の自由や営業の自由を不当に制限する場合には無効となります。

 また、そのような特別の合意をしていない場合であっても、本件のケースのように、元従業員が元の会社と同じ業種・業態の会社を設立し、会社の顧客名簿や営業ノウハウを不正に利用している場合には、不正競争防止法に基づく各種の法的措置を講ずることができます。ここで不正競争防止法において保護される「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていな いもの」をいいます。(同法2条6項)。

 このように、「営業秘密」というためには、その情報等が主観的にも客観的にも秘密として管理されている必要があり、一般的には①当該情報にアクセスした者が、当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしてあり、②当該情報にアクセスできる者が制限されていることが要件となります。

 本件において、その顧客名簿や営業ノウハウが「営業秘密」に該当する場合は、元従業貞に対し、不正競争防止法に基づいて①差止請求(同法3条1項)②廃棄除去処分(同条2項)③損害賠償請求(同法4条)④信用回復措置請求(同法14条)などの措置を講ずることができます。

「営業秘密」

現在の情報化社会において、またITの普及にも伴い、営業秘密の流出や労働者の流動化は、既存の企業において存亡の危機ともいえる事態を生じさせる恐れもあります。そのような事態を防止するためには、-時的には企業自身で営業秘密の徹底した管理をする必要があります。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和55年生まれ。
済々黌高校-九州大学法学部卒。2003年司法試験合格。2005年弁護士登録。日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。日本司法支援センター熊本地方事務局地方扶助審査副委員長。日本プロ野球選手会公認選手代理人。熊本県弁護士会野球部主将。

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