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他社の事業の一部を取得する方法

北野 誠| 2012年 4月号掲載

 取引先であり複数の事業部門を持つA社から会社の事業の一部門を買い取ってもらえないかという話がありました。そのような場合、「事業譲渡」と「会社分割」という方法があると聞きましたが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか?

 まず、事業譲渡とは、会社がその事業(工場や機械等の資産だけではなく、ノウハウやのれん、顧客などの事業を成り立たせるために必要な要素)を譲渡することをいいます。本件で考えられておられる事業譲渡は事業の一部譲渡ですので、事業の全部ではなく個別の事業を他の会社に売却すること指します。

 他方、会社分割とは複数の事業部門を持つ会社が、その一部を切り出してこれを他の会社に売却することをいいます。会社分割には2つ以上の会社がそれぞれの事業部門を切り出して新会社をつくる新設分割と既存の会社に事業部門を吸収してもらう吸収分割があります。本件で御社が検討されている会社分割とは、後者の吸収分割のことを指すと考えられます。

 このように、A社の事業の一部門を譲受けるという点では、事業譲渡(事業の一部譲受け)と会社分割(吸収分割)は共通しています。

 しかしながら、以下のような点で違いがあります。
 事業譲渡(事業の一部譲受け)については、資産や負債の移転につき個別の移転手続が必要であり、債務の承継や契約上の地位の移転については債権者や相手方の同意を要しますが、会社分割(吸収分割)では、債務の承継について債権者保護手続の履践で足り、個別の同意は必要ありません。ただし、会社分割の場合には、従業員の地位の移転に関して労働契約承継法に基づく一定の手続が必要。

 また、事業譲受けについては、事業全部の場合は原則として株主総会の特別決議が必要とされていますが、事業の一部の譲受けに関しては、株主総会の特別決議は要求されていません。他方、吸収分割については、原則として、株主総会の特別決議を経る必要があります(一定の要件を満たせば、株主総会の特別決議を要しない略式吸収合併または簡易吸収合併という手続が認められています)。

 このように、事業譲渡(事業の一部譲受け)と会社分割(吸収分割)では、債権者保護手続きや従業員の地位の移転、株主総会の特別決議の要否など手続的な面で違いが見られます。

 その他にも、偶発債務(現時点では債務ではないが、一定の事由を条件として、将来債務となる可能性がある債務)を遮断する方法や税務上の観点からも異なる点がありますので、個別の事案に応じて最適の方法を選択する必要があります。

「事業譲渡」と「会社分割」

ある会社の特定の部門にかかる事業を取得する方策として、事業譲渡や会社分割が検討されることがあります。どちらの方法を選択するべきかについては、両者のメリット・デメリットを比較した上で、その取引の特性やニーズを考え、法律上、税務上、会計上の観点から有利な方法を選択する必要があります。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和55年生まれ。
済々黌高校-九州大学法学部卒。2003年司法試験合格。2005年弁護士登録。日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員。日本司法支援センター熊本地方事務局地方扶助審査副委員長。日本プロ野球選手会公認選手代理人。熊本県弁護士会野球部主将。

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