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会社のミスとクレームへの対応

馬場 啓| 2021年 6月号掲載

当社は、先日、こちらのミスで、ある顧客(A)に対する請求書を、別の顧客(B)に送付してしまいました。そこで、すぐに顧客Bに連絡し、送付した請求書を返してもらうとともに、顧客Aにもこのことを報告してお詫びしたのですが、顧客Aは、「謝れば済むと思っているのか。」と言って納得されません。その後、お詫びのお手紙を出したり、担当役員がお宅を訪問して謝罪したりもしたのですが、顧客Aは、「損害はどうしてくれるのか?」「会社の誠意を示せ。」等と要求し、最近では、毎日のように電話をかけてきて文句を言い、応対する社員はすっかり疲弊してしまっています。当社としてはどのように対応すればいいでしょうか?

  まず、御社が顧客Aに対して責任を認めて謝罪されたことは、あるべき対応として評価されるものです。ミスがあったのにことさらに否定したり、隠蔽したりすると、そのこと自体が大きな問題となり、企業の信用性にとって致命的な結果になるおそれすらあります。

 つぎに、御社としては、顧客Aの言い分を十分に聴取し、クレームの正当性を吟味する必要があります。もし、今回の件で顧客Aに本当に被害が発生しているのであれば、それに応じた真摯な対応が必要であり、安易に「クレーマー扱い」するようなことがあると、ますます問題の解決が難しくなります。

 これに対し、聴取した結果、顧客Aが、特にこれといった被害もないのに、言いがかりをつけて金員を請求しようとしているということであれば、毅然とした態度で対応するべきです。もともと請求書の送付先を間違ったという落ち度(責任)があるので、御社としては相手方の要求を断りにくい立場にあるとは思います。しかしながら、法的には、責任があるかどうかということ(責任論)と、損害があるかどうかいうこと(損害論)は、別の問題として取り扱われます。いくら責任があったとしても、それによる損害が発生していない以上は損害賠償をする必要はありませんし、損害が発生したとしても、損害賠償はあくまでもその発生した損害の範囲ですれば足り、それを超えて相手方の要求のまま支払う義務はないのです。

 そこで、顧客Aの不当な要求に対しては、毅然としてこれをはねつける勇気が必要です。少しでも弱気な態度やあいまいな姿勢を見せると、相手方はそこにつけ込んでさらに不当な要求を重ねてくるおそれがあります。

 相手方が「要求に応じなければ、今回のミスをネット等で公開する」等と脅してくるケースもあるかもしれません。このような情報が公開されることは御社にとっては避けたいところでしょう。しかしながら、だからと言って相手方の不当要求に屈してしまうと、やはりその後、要求がエスカレートするおそれがありますし、そもそも「口止め料を払う」というのは、企業としてのコンプライアンス上の問題もあります。御社が前記のとおり、間違った請求書の回収や顧客Aへの報告・謝罪等のしかるべき対応をしているのであれば、たとえ今回のミスを公開されても恐れるには足りません。むしろ、ミスを隠蔽することの方に企業の信用を損なうリスクがあるといえます。

相手方の執拗な電話や訪問等により御社の業務に支障が生じるという場合には、相手方には業務妨害罪が成立しますし、要求の内容によっては脅迫罪、強要罪、恐喝罪等の犯罪にもなります。また、民事上も、不当なクレームが繰り返されるときには、裁判所に対し、差し止めを求める申立てをする方法もありますし、不当クレーム等により御社に損害が生じれば、こちらの方から損害賠償請求ということもできます。さらに、要求額の妥当性に問題があり、金額的に折り合わないという場合には、民事調停や債務不存在確認請求訴訟で決着を図るということも考えられます。

 いずれにせよ、クレームの正当性を吟味した上で、正当なクレームには真摯に対応し、不当なクレームには毅然として対応することが重要といえます。

「企業のクレーム対応」

正当なクレームには真摯に対応し、不当なクレームには毅然として対応することが重要。

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桜樹法律事務所の企業法務

熊本市出身、昭和35年生まれ。
早稲田大学政治経済学部卒。95年弁護士登録。2015年度熊本県弁護士会会長、熊本県情報公開・個人情報保護審議会会長、熊本市入札等監視委員会委員長。

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